定年後から始めるデジタルものづくり:3Dプリンター・電子工作で広がる学びと社会との繋がり
定年後の新しい挑戦としてのデジタルものづくり
定年という人生の節目は、これまでの経験を振り返りつつ、新しい知や活動の場を探求する絶好の機会となります。長年培ってきた技術的な知識や経験を活かしたい、あるいは全く新しい分野に挑戦してみたいとお考えの方もいらっしゃるでしょう。同時に、社会との繋がりを保ち、活動的な日々を送ることは、心身の健康維持にも重要です。
こうした中で、「デジタルものづくり」が、定年後の学びと社会との繋がりを深める魅力的な選択肢として注目されています。3Dプリンターを使った造形や、マイクロコントローラー(マイコン)を用いた電子工作などは、技術的な面白さと創造性を同時に満たし、さらに多様な人々と交流するきっかけを生み出します。この記事では、デジタルものづくりが提供する可能性と、学びを始めるための具体的な方法についてご紹介します。
デジタルものづくりとは何か
デジタルものづくりとは、コンピューターのデータやソフトウェアを活用して物理的な「もの」を作り出す活動の総称です。代表的な技術としては、以下のものが挙げられます。
- 3Dプリンター: デジタルデータ(3Dモデル)を基に、プラスチックや金属などの素材を積み重ねて立体物を造形します。個人でも比較的手軽に高品質な造形物を作成できるようになりました。
- 電子工作(特にマイコンを使ったもの): ArduinoやRaspberry Piといった小型コンピューター(マイコン)とセンサー、モーター、LEDなどを組み合わせて、光る、動く、周囲の情報を感知するなど、様々な機能を持つ装置を作成します。プログラミングによって制御することも可能です。
- レーザーカッター: デジタルデータ(2Dデータ)に従って、木材、アクリルなどの素材をカットしたり彫刻したりします。
これらの技術を用いることで、これまで専門的な工場でしかできなかったような複雑な形状の部品や、インタラクティブな作品を個人レベルで製作することが可能になりました。
なぜ定年後にデジタルものづくりが推奨されるのか
定年を迎えられた方々にとって、デジタルものづくりを始めることには多くの利点があります。
知的好奇心と創造性の刺激
新しい技術やツールを学び、自分のアイデアを形にする過程は、知的好奇心を強く刺激します。設計図を描き、素材を選び、実際に手を動かして試行錯誤するプロセスは、脳を活性化させ、日々を充実したものにします。完成した作品を手に取った時の達成感は、格別のものです。
技術経験の活用と学び直し
特に製造業、設計、エンジニアリング、プログラミングなどの分野で長年の経験をお持ちの方であれば、これまでの知識やスキルをデジタルものづくりに応用できます。CADを使った設計経験があれば3Dモデリングに、電気回路の知識があれば電子工作に、ソフトウェア開発の経験があればマイコンのプログラミングに、それぞれ活かせる部分が多くあります。もちろん、経験がない分野でも基礎から学ぶことで、新しい技術領域への理解を深めることができます。
具体的な成果物を通じた交流
デジタルものづくりで生まれた作品は、目に見える具体的な成果物です。これを介して、同じ趣味を持つ人々と交流したり、作品について語り合ったりすることができます。自身の創造性を表現し、他者と共有することで、新しい人間関係が生まれます。
社会との繋がり、コミュニティへの参加
デジタルものづくりは、個人で楽しむだけでなく、社会と繋がるためのツールともなり得ます。地域の課題解決のために必要な道具を自作したり、学校の教材や高齢者向けの補助具を作成したりするなど、社会貢献に繋がる活動も可能です。また、後述するメーカーズスペースや市民工房、オンラインコミュニティは、共通の興味を持つ人々が集まる場で、自然な形で社会との繋がりを保つことができます。
デジタルものづくりを始めるための第一歩
デジタルものづくりを始めるにあたって、高度な知識や高価な設備が必ずしも必要というわけではありません。まずは興味のある分野から少しずつ学んでいくのが良いでしょう。
学びの場の種類
学び始める場所は多様に存在します。
- 市民講座やカルチャースクール: 自治体や民間の団体が主催する入門講座は、基礎から体系的に学ぶのに適しています。同じ地域に住む仲間と出会いやすいというメリットもあります。
- メーカーズスペースや市民工房: 3Dプリンターやレーザーカッター、各種工具などが設置された共用スペースです。使い方を教えてもらったり、常駐するスタッフや他の利用者に相談したりしながら、実際に手を動かすことができます。ものづくりを通じたコミュニティの中心となる場です。
- オンライン講座やチュートリアル: 自宅にいながら、自分のペースで学ぶことができます。UdemyやCourseraといったMOOCs(大規模公開オンライン講座)や、YouTubeなどの動画サイトにも、デジタルものづくりに関する豊富な学習リソースが存在します。プログラミング言語や特定のソフトウェアの使い方を学ぶのに便利です。
- 専門学校や大学の公開講座: より体系的、専門的な知識を深めたい場合に適しています。
ご自身の興味やこれまでの経験、利用可能な時間などを考慮して、最適な学び方を選びましょう。
必要な道具と費用感
入門レベルであれば、意外と手軽に始められるものもあります。
- 電子工作: Arduino UNOスターターキットなどは数千円から購入可能で、基本的な部品が一通り揃っています。コンピューターとインターネット環境があれば、すぐにでも始められます。
- 3Dプリンター: 安価な個人向けモデルも増えており、数万円から購入可能です。ただし、設置場所の確保や使用方法の学習は必要です。メーカーズスペースなどを利用すれば、購入せずに試すこともできます。
- ソフトウェア: 3Dモデリングやプログラミングに必要なソフトウェアの多くは、無料または安価で利用できるものがあります。
まずはメーカーズスペースで試してみたり、入門キットから始めたりするなど、小さく始めてみるのがおすすめです。
学びから広がる社会との繋がり
デジタルものづくりは、学ぶ過程そのものが社会との繋がりを生み出す可能性があります。
- メーカーズスペースでの交流: 同じ場所で活動する様々な年齢や経歴の人々と技術やアイデアを共有することで、自然な交流が生まれます。
- 地域のイベントや発表会: 自身の作品を展示したり、地域の課題解決に向けたプロジェクトに参加したりすることで、地域社会との繋がりを深めることができます。
- オンラインコミュニティ: FacebookグループやRedditなどのオンラインフォーラムでは、世界中のデジタルものづくり愛好家と情報交換ができます。技術的な質問をしたり、自分の作品を見てもらったりすることが可能です。
これらの活動を通じて、共通の趣味を持つ友人を作ったり、誰かの役に立つものづくりに携わったりするなど、定年後の生活に新しい活力を加えることができるでしょう。
まとめ
定年後に何か新しいことを始めたい、これまでの経験を活かしたい、そして社会との繋がりを大切にしたいとお考えであれば、デジタルものづくりは魅力的な選択肢の一つです。3Dプリンターや電子工作といった技術は、創造性を刺激し、学び続ける楽しさを提供すると同時に、多様な人々や地域社会との交流の機会を生み出します。
様々な学びの場が存在しますので、まずは興味のある分野の入門講座を探したり、お近くのメーカーズスペースを訪ねてみたりすることから始めてみてはいかがでしょうか。デジタルものづくりを通じて、定年後の人生をさらに豊かで活動的なものにしていただければ幸いです。